『首都圏私大の賃金及び教育・研究・労働条件』という資料がすごい

私立大学の給与水準は謎に包まれている部分が多いことは業界関係者であれば周知の事実かと思います。これまでこのブログでも何回か話題としてとりあげてきました。

各大学の給与や個人研究費が知りたいときの調べ方

私立大学准教授の給与例(1年目から4年目)

例外的に,首都圏の一部の私立大学に関しては,具体的な給与水準を示した,非常に詳しい資料があります。それがタイトルに挙げた『首都圏私大の賃金及び教育・研究・労働条件』です。各学校法人の労働組合がまとめた資料で,年齢ごとのモデル賃金や,退職金が賃金の何ヶ月分であるか,手当にどのようなものがあるか,などが記されています。各年版によって調査・掲載内容が異なっており,主立った労働条件はほぼ網羅できているのではないかと思います。2017年度版には45の教員組合・職員組合がデータを提供しています。

内容をアップロードすることは禁じられているので,ここでは資料の入手方法だけ書いておきます。残念ながらこの資料は国会図書館には所蔵されていませんので,国会図書館東京本館に行っても閲覧することはできません。各大学の大学図書館に所蔵されている資料になります。大学関係者であれば,所属先の図書館からILL(図書館間相互貸借)を通じて,現物貸借で借りることが出来ます。CiNiiによれば,本資料は11の大学で所蔵されていますので,この中に貸してくれる大学があれば借りることができるという仕組みです。

具体的な内容に踏み込まないように2点感想を述べると,第1に,私立大学業界というのは旧態依然とした年功賃金制度を採用している大学が多いことが印象的でした。企業であれば役職定年制度などが導入されて,職業人生終盤の給与が下がるように設計されていることも多いですが,現行の私立大学は完全な年功制であることが多いです。額面から税金や社会保険料が引かれるので,実際の手取りの昇給幅はそれほど大きくはならないのですが,無事に勤め上げることが重要であるといえるでしょう。

第2に,退職金の勤続年数ボーナスの傾斜がかかっているため,なるべく同じ大学に長く勤めることが重要です。終の棲家と決めた大学で35年勤務しようと思うと,35歳で定年70歳の大学に勤めることが必要になります。もし定年が65歳であれば30歳です。勤続35年をめざすのはやや理想的すぎるかもしれませんが,逆に40歳を過ぎてからの転職をする場合,退職金の目減り分に見合う効果がその転職にあるのかどうかを検討する必要があると思います。また,各大学の定年は62,63~70まで幅広いので,給与水準の高さだけでなく定年を確認することも重要なポイントでしょう。

知人が大学教員という職業は「無事之名馬」なビジネスモデルであると表現していました。もちろん一流の研究者になれば副業等によって,大学からの給与は大きな問題ではないという場合もあるかもしれません。そのような上振れを狙いつつも,標準的な大学教員にとってまず重要なのは,長期的な視野を持って勤務先を選び,誠心誠意勤め上げることであるといえるでしょう。

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