人的資源管理論のテキスト4冊+α

2022年度は非常勤の授業の関係で、人的資源管理論を担当し、ほぼほぼ無から勉強してオンデマンド用の講義を収録したので結構大変だったのだが、一応学部レベルのHRM領域に入門した程度には勉強したので文献情報の備忘録。

人的資源管理論(Human Resource Management)、人事管理(Personnel Management)、労務管理等の名称にはばらつきがあり、意味も若干異なるが、初学者はとりあえず異同を気にしなくてもよいとおもう。

科目として確立された領域なので、学部レベルのテキストが多数でている。版の重ねられた定番テキストとしては以下の今野・佐藤(2022)と佐藤・藤村・八代(2019)が挙げられる。今野・佐藤の初版は2002、佐藤・藤村・八代も初版はAmazonで見当たらないが、2版(新版)で2003とあるので、20年の歴史がある。

今野浩一郎・佐藤博樹(2022)『マネジメント・テキスト 人事管理入門(新装版)』日本経済出版。

佐藤博樹・藤村博之・八代充史(2019)『新しい人事労務管理 第6版 (有斐閣アルマ > Specialized)』有斐閣。


今野・佐藤(2022)の方が分量が多いが、佐藤・藤村・八代(2019)の方が図表に具体的で丁寧なものがあった。どちらでも良いと思う。

上記よりも後発のものとして2冊紹介しておく。

安藤史江(2008)『コア・テキスト 人的資源管理 (ライブラリ経営学コア・テキスト)』新世社。

安藤(2008)はトピックを採用・評価・配置・人材育成・就業環境といった人事管理プロセスの主要な部分に限定しているので、専門外なのでそんなに深く勉強するつもりはないとか、文字をいっぱい読むのは大変だという場合はこれでも良いと思う。平易なテキストを作るのは結構難しいのだけど、この新世社のコア・テキストシリーズは3,4冊読んだ限りだいたい成功しているように思う。

平野光俊・江夏幾多郎 (2018)『人事管理 — 人と企業,ともに活きるために (有斐閣ストゥディア)』有斐閣。

逆に平野・江夏(2018)は、主要なテキストがちゃんととりあげていないシステムの理論的な部分に関する検討があったり、ワーク・ライフ・バランスや働き方改革、高齢者雇用、女性の活躍推進など近年のトピックへの目配せがなされている。ちゃんと勉強するなら定番2冊のいずれかと、平野・江夏(2018)を拾い読みするような形でよいかと思う。

今回勉強してみて感じたのは、日本的人事雇用システムの近年の変革というのはずいぶんと折衷主義というか、元々のシステム上の意図に、違う理屈の施策をくっつけようとして混乱しているなということだ。

たとえば、職務遂行能力によって評価をする能力主義的な評価システムの場合、従業員が積極的に能力開発を進めることがベースの企図としてあり、当然、能力が開発された従業員に対しては高給をもって報いることが要求される。ところが、たとえば蓄積された能力が時代の要請に合わなくなった場合はどうする(評価を下げる仕組みを実装している企業は多くないだろう)とか、近年のリカレントやリスキリングの問題をとっても、そもそも能力開発に適した仕組みを導入していたのではなかったのかといった反省をどう考えるのか。あるいは各自の勝手な能力開発に任せた結果、総労働費用が上がりすぎる(コントロール不能に陥る)問題をどうするとか。このように、システムのベースの企図とはまた別の立場からパッチを当てようとするのだが、パッチをあてているときには元々のシステムの設計意図や反省に関する議論が飛びがちということが起こるのだろう。目の前の問題には対処できるが、システム全体の挙動がよくわからなくなっていくのだろうなと思い、通り一遍の座学をしておくことは大事だなとおもった。

このあたりは濱口桂一郎 氏の著作を読むと、ジョブ型とメンバーシップ型の対比で、様々な近年のアップデートや労働問題を切っていて面白く読めた。労働法まわりの裁判所の判断も輪をかけて奇々怪々としていることがわかっておもしろい。

濱口桂一郎(2009)『新しい労働社会: 雇用システムの再構築へ (岩波新書) 』岩波書店。

濱口桂一郎(2021)『ジョブ型雇用社会とは何か: 正社員体制の矛盾と転機 (岩波新書 新赤版 1894)』岩波書店。

労働法は専門外だが、定番の入門書としてあげられることが多いのは下記のようだ。アップデートが多いので、最新のものに触れるのがよいだろう。

森戸英幸(2023) 『プレップ労働法 第7版 (プレップシリーズ)』弘文堂。

実際の企業の事例などを探す方法はいまいち把握しきれないところがあるのだが、下記のような雑誌やウェブ媒体を実務家は参照しているようだ。

  • 『労政時報』労務行政
  • 『Works』リクルートワークス
  • 『人材教育』『Learning Design』日本能率協会マネジメントセンター
  • 『企業と人材』産労総合研究所


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