事業仕分けと「政策のための科学(SciREX)」

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前職では文部科学省「科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進事業(通称SciREX)」というプロジェクトの中のひとつのプロジェクトに雇用されてポスドクをしていたのだけれども,その頃に「SciREXは事業仕分けのような事態に対する対策として立ち上げられたプロジェクトだ」という話を聞いた。大学院生の時に生じた事業仕分けは,将来に対する動揺を周りの院生に引き起こすものだったし,そうしたことに文科省が対応しようとする姿勢に私は共感した。

ところで,数年前に聞いたこの話が内々だけのものだったのか気になったのでちょっと調べてみた。

わが国では、これまでも政策評価体系の導入や政策研究機関の設置等が行われてきたが、民主党政権の「仕分け」や第4期科学技術基本計画の検討の中で、政府研究開発投資の投資効果の正当性について強く説明責任が求められた。このような状況の中で、JST*1 ・CRDS*2 は「科学技術イノベーション政策の科学」の構築に向けた提言を行った。

『SciREX Quarterly』「SciREXとエビデンスに基づく政策形成:これまでとこれから」Vol.0 , p.4。強調は引用者による。

外に出してはいけない話というわけではないようなのでもういくつか,論者の明らかなものを拾ってみる。

政治力、最近はメディアの力、さらにいうとセンセーショナル・メディアの力があります。事業仕分けもその一つ。スパコンに関する議論はかなり乱暴で、明らかにセンショーナリズムでした。ですから、研究の成否の物差しについてきちんと熟議し、政策言論空間を健全化したいと思っています。

SciREXセンター ウェブサイト「キーパーソン・インタビュー Vol.1 鈴木寛氏」

日本では、2011年度より「科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」」プログラム(SciREX)が開始された。この背景には、政治的に「仕分け」に代表されるように従来の政策形成システムに変革がもとめられていたこと、3 期にわたる科学技術基本計画に基づく政府研究開発投資に対して疑問が呈されていたことがある。
赤池 伸一(文部科学省)「1F07 エビデンスベースの政策形成に向けた取組の課題と展望 : SciREX と科学技術イノベーション政策(〈ホットイシュー〉第5期科学技術基本計画策定に向けた政策分析(1),一般講演)」『研究・イノベーション学会年次学術大会講演要旨集』 29, 171-176, 2014-10-18

ということで文科省の政治家サイドでも行政官サイドでもそれなりに共有され,公表できる事業背景であるようだ。

ところが,5年が経過して具体的な政治家への対応体制が構築されたのかどうかというと,よくわからない。平成28年度 SciREX事業の運営について (事務局整理)(2016年9月,pdf)のp.7を見ると,「喫緊の政策課題への機動的対応」という項目は右下の片隅にかろうじて残っている状態であり,機動的対応をとるためにどうするのかというブレイクダウンがなされた形跡は資料からは読み取れない(文書ではなくこのようなポンチ絵を主体とする資料は,課題の優先順位や解釈を曖昧にし,詳細なコンテクストは作成者や内輪にしかわからないようにできているので,オープンな議論を難しくする)。この図はあちこちに転載されているのだが(たとえば,JST側にも「SciREX事業「重点課題2016」と科学技術基本計画との関係」というページに同様の図がある。HTMLなのでこちらを見ていただいた方がわかりやすいかもしれない),広報誌『SciREX Quarterly』の創刊号(2016年5月)のpp.10-13では,類似の図や文言による紹介がなされているものの,「喫緊の政策課題への機動的対応」の文字は見受けられない。創刊号の方が時系列としては先なので,後から足されただけマシとみるか,まあそのあたりの解釈は難しい。

最近河野太郎議員(自民党行政改革推進本部長)が2016年11月上旬頃より日本の基礎研究や大学行政周りの統計データについて,研究者とインターネット上でやりとりをしたり,議員が解決した対応状況について公表したりしているのだが,どうにもエビデンス・ベースドな政策形成まであと一歩というもどかしい状況が続いている。たとえば「それでも研究者の皆様へ」というエントリには文科省に調べてもらったらしい職員数や経常費用についての数字が並んでいるが,読者にはこの数字がどうやってでてきたのか,出所や計算方法が書かれていないので検証することができない。これは評価の分かれるアウトプット側の指標の話ではなくインプット側の数字だし,既存の統計から出してきているので,そんなに難しいことではないと思うのだが,数字を渡すときに「出所をこういう風に書いて下さいね」ぐらい言えないものなのだろうか・・・。

一応2年間禄を食んだ恩があるので上述の数字の出所の件は文科省に問い合わせるので,答えが返ってきたら公表しようと思うのだが,こういう突発的にオープンな議論になってしまったときには,文科省自ら情報の整理・提供をできるように備えていないと,本当に事業仕分けのようなポピュリズムが再来したときに困ってしまうのではないだろうか。

2016/12/08追記

文科省から回答を得たので、とりあえずコピペで掲載しておく

————–引用始め———-

いつもお世話になっております。
文部科学省国立大学法人課でございます。

先日ご質問ありました河野太郎議員のブログについてですが、
職員数、経常費用は以下の出典元、計算方法から算出しております。

【職員数】
統計1、3は、文部科学省で実施している学校基本調査が出典元となっております

詳細については、以下URLをご参照ください。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm

統計2は各国立大学法人で作成・公表されている事業報告書
の「教職員の状況」に記載された教職員数を集計したものです。

【経常費用】
各国立大学法人で作成・公表されている財務諸表を集計したものです。

具体的には、まず割合については、損益計算書の経常費用から、
附属明細書「開示すべきセグメント情報」における
附属病院の業務費用を勘定科目毎に差し引き、
その各勘定科目の金額が費用全体に対して
どういう割合となっているかを百分率で表したものです。

また、人件費の額も考え方は同様で、
損益計算書の人件費から、附属明細書「開示すべきセグメント情報」における
附属病院の人件費を差し引いた額です。

———-引用終わり————–

財務諸表はおそらくhttp://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houjin/houjin.htmの下の方にある財務諸表の項目からたどれるはず。

平成26年度 http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houjin/detail/1365687.htm
平成16年度 http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/286184/www.mext.go.jp/b_menu/houdou/17/08/05090601.htm

統計2の教職員数がまだ謎なんだけど、取り急ぎ。