大学教育におけるレポート執筆の前段階として,ウェブライティングを試行している。ゼミでは4年生にやってもらっているのだが,結構簡単そうなので,2019年度後期は1年生にも読解・作文の技法という授業でやってみてもらう予定だ。そこで,今一度Webライティングを取り入れることのネライを書いておこうと思う。
教育のためのウェブライティングの利点・欠点
Webライティングの教育的メリット
- 誰かのために文章を書くこと,誰かの困った・わからないを想像し答えるという作業の重要性。
- よくレポートの指導をするときに「読み手を意識して書く」と言うことがあるが,そのためには実際に読まれる場で書くことが早道であろう。
- 読まれるというフィードバックがあることでモチベーションにつながる。
- お互いの文章を読むことで,最低限の品質が向上する(上手い同級生の書き方を真似することができる)。
- さらに,数ヶ月経つと,アクセス回数という形で市場の評価も得られる。教員や同級生以外の評価を簡単に得ることができる方法であるといえる。
- 検索エンジンに最適化した書き方が求められる。
- PCやスマホの画面は一覧性に欠けるので,短く,わかりやすく書くことが求められる。
- Webライティングでは検索キーワードを意識した書き方も必要になる。検索キーワードを意識することで,内容の焦点を絞ることもできる。
- 大学で要求される各種文章よりも短いものを大量に書くトレーニングに適している(2000字ぐらいを目処に書いてもらっている)。
- 書きやすい長さから始めることで,ハードルを下げる効果。
- 2000字は新聞だと長めの特集記事ぐらい(新聞記事としては読み応えのある長さ) 。
- 大学で課される文章は普通もっと長い。期末レポートだと4000字ぐらい。
- 大学の先生が普段書く論文はだいたい16000字から20000字ぐらい。
- 4年時に書く卒業論文も20000字とか40000字とか。
- よく読まれるためには戦略が必要。
- 自分の書くことができる内容と,世の中が必要としている内容の接点を見つけることの難しさ。経営戦略の基本コンセプトである内部資源や外部機会といった概念の理解に適している。
- 狙ってみても外れることがある。試行錯誤が重要(マーケットを実際に触ってみて,得体の知れなさを体感する)。
逆に,学術レポートでないとトレーニングしづらいこと
- 論理的なつながりが厳格に要求される文章の構成(レポートでは箇条書きや体言止めを禁止する)。
- 既存文献のネットワークに位置付けて自分の文章を書くことのトレーニング(引用,参考文献の明記,文献の表記法の学習)。
- 長文を構成すること。
その他,経営学教育としてのWebライティング
Googleの検索システムと広告システムのプラットフォーム内で,どういう風にお金が動いているかを理解すると,Webに文章を書くことがどのように様々なビジネスの入り口となっているかを理解することもできるだろう。
ただし,これに至るには少しビジネスとしてのGoogleがどのように成立しているのかを理解するためのセクションを設ける必要がある。例えば,Youtuberがどのように儲けているのかなどを調べてみると,プラットフォーム・ビジネスの在り方が理解できるだろう。
15回の課題構成例
全4回の記事執筆(各2000字)
- イントロダクション(1回):提出方法や授業の進め方,成績評価に関する説明。
- 課題1(全2回)自分の経験で中高生に役立ちそうなことを書いてみよう。
- 大学生になって知ったこと,経験したこと,学んだことを,少しだけ一般化した「役立つ知識」として文章にしてみよう。
- 学習のポイント:日本語の書き方の基礎を学ぼう,MSwordの諸機能を覚えよう。
- 課題2(全4回)啓蒙書の書評を書いてみよう。
- 図書館で大学の先生が書いた新書や啓蒙書を探して読んでみよう。
- 読んだ内容で特に印象に残ったところを大胆に要約しよう。
- 読んだことのない人に向けて,どういう人に勧められるどういう本なのかを考えて書いてみよう。
- 学習のポイント:本の書誌情報を読めるようになろう。
- 課題3(全4回)複数の文献をまとめて「まとめ記事」を作ってみよう。
- 最近の経済問題について,複数の新聞記事や雑誌記事の内容をまとめてみよう。
- 学習のポイント:時事問題に関心を持とう,引用の作法を学ぼう。
- 課題4(全4回)企業分析をして簡単なレポートを書いてみよう。
- 気になる企業について,どういう企業なのか簡単に紹介しよう。
- 近年の業績をまとめよう。
- どのような理由で近年の業績が成り立っているのか,原因を考えよう 。
- 学習のポイント:経営学の基本を文章にしよう,因果関係の基礎を学ぼう。
課題構成のポイント
自分の経験を書くことには限界がある。大学生の短い人生経験の中で,他人に読ませるほど独特な経験はなかなかない。課題1は一度だけなので何か書くネタが見つかるかもしれないが,繰り返し,世の中の役に立つような経験を執筆するのはなかなか難しいことだ。
何らかの付加価値を世の中に提供して生きていくためには,経験したことだけに限らず,積極的にインプットを増やしていく必要がある。特に,何らかのアウトプットの締切に迫られてインプットしていくと(短期的には)わりと効率がよい。課題2では簡単な本を読み,課題3では複数の新聞記事や雑誌記事をまとめ,課題4では企業業績を読むことでインプットを増やし,学習したことをすぐに書いてまとめて公開するという作業を繰り返していく。