大学教員が考える履修の組み方・考え方

春や秋は履修登録の季節。学生の間では授業の評判やら楽にとれる単位などの情報がとびかったり,友人と一緒にとる授業を考えたりという時期かと思う。大学で学ぶ内容を構成するときに,教員からすれば常識的なことなのだけれども,そういえばインターネットにはあまりちゃんと書いていないかもしれないことをまとめておく。

6-10単位ぐらいのまとまりで考える

最近の大学の授業は半期2単位ぐらいをモジュール(ひとつのまとまり)として構成されている。昔はもっと通年4単位科目が多かったが,最近は細かく分けるようになり,2単位,つまり90分*15回だったり100分*14回だったりの授業を受けて,試験に合格すれば単位が認定される。この2単位というまとまりは大学の制度上の都合というか,いろんな学生に多様な学び方を提供するための都合である部分が大きく,2単位毎に学びが完結するわけでも,2単位というのが学習上適切な区切りであることを意味しないということは理解しておく必要があろう。高校数学のI・AとII・Bが意味のある区切りというよりは,IAでやめる人のための区切りであるというのに似ている。

なんらか入門科目を2単位とって合格すれば入門できたかというと,そうともかぎらないのが難しいところである。たとえるならば本の目次までみて脱落する人のための区切りであって,そこになにか積極的な意味があるわけではない。2単位授業にどのくらいの情報が詰め込めるかというと,黒板やスライドを用いた情報提供型の授業でも薄い本1冊から2冊分といったところで,実は口頭伝達である限り,多くの情報を伝達できない。

ある程度意味のある入門をしたいのであれば,授業で換算すると,6単位とか10単位とか,ある程度その領域の授業は複数提供されているのが一般的だと思うので,それらは全部取る,そういう10単位ぐらいの大きなパッケージを自分の2-4年の履修計画の中に複数配置していくのがよいのではないかとおもう。経営学であれば,マーケティングの科目10単位,会計の科目10単位,そのくらいを複数年計画でとって,繰り返し似たような話を授業できくようにするとよい。知識の定着という意味でも,1回聞いただけの話というのは忘れやすいので,なんか前別の授業で似たような話を聞いたなという状態を作るようにしよう。10単位のパッケージぐらいだとすると,必修や教養科目を除いて,大学4年間の中に最大で7つか8つぐらいは意味のある学びができるということになる。実際には,とってみたけど自分に合わないというものも多いし,それも重要な学びのプロセスなので,最大4つか5つといったところだろう。これは多いだろうか,少ないだろうか。意外と制約があると感じるのだとすると,ようやくそれは何かを選ぶ入り口に立ったということなのだと思う。

逆に,もう専門に決めていることがあるから10単位を越えて勉強したいと思っていても,文系の大学のカリキュラムは特化的に学べるほどの科目を用意していないことも多いと思う。資格試験とかがあるタイプの分野であれば独学しやすいので良いが,そうでないような分野だと10単位学ぶぐらいだと日本語の入門書レベルは習得ずみだと思うので,そろそろ独学しようにも独学の方法から考える必要が出てくる。専門分野としての学びについてはこのあたりからがようやくのスタートで,その道のキャリアの先輩に勉強の仕方を相談すると良いと思う。

専門知識を得るための前提条件を満たす

既に何か将来の目標がある場合はそれに向かって勉強をすればいいのだが,目標がそれほど明確でないようなときには,将来の選択肢を確保するための勉強をすることになる。将来的に何かやりたいことが見つかり,専門的な情報や知識を手に入れたいとなったときに,その前提を満たしていないと手に入らないタイプの知識がある。たとえば,データベースの使い方をわかっていないと情報が手に入らないとか,崩し字が読めないと古文書が読めないとか。中でも,習得にある程度時間がかかり,汎用性の高いのは語学と統計学だと思うので,ある程度の水準を示しておく。

英語の勉強を続けるための水準

入試偏差値60(私立文系,河合塾)ぐらいの大学生で,入学時点の英語の語学力がおよそCEFRB1の最低ライン,TOEIC(L&R)550,英検2級ぐらいが平均的なところだと思う。これを大学2年ぐらいまでにもう1ランク,CEFRでB1上位~B2下位,英検準1級,TOEIC750ぐらいまで上げておくことを推奨する。入学時に平均的な水準に達してない場合は大学卒業までに目指すぐらいのスケジュール,CEFRでB2だと,上位の大学の入試で使えるぐらいの成績なので,もっと偏差値の高い大学の学生であれば入学時点でだいたいこのくらいの水準だろう。英語の勉強は一生続けていけるためのエントリーラインがこのあたりで,英語の勉強をする状態から英語で勉強しながら英語の勉強もするであるとか,機械翻訳を使いながら怪しいところを自分で文法書ひきながらでも自分で確認して修正できるとか,そういった作業に入るためには,TOEIC 550ではちょっと厳しい。就職活動を考えても,日本企業であればTOEIC730ぐらいを設定していることが多いので,このくらいあれば一応履歴書に書ける水準(英語弱いことを示してしまうものの)ということになる(外資系とか,もっと英語を使うところでは足らない)。
英語に関しては,中高6年勉強してきているので,良くも悪くも科目としてこなすことになってしまっていて,無目的に,時に能力の向上を目指さずに勉強している姿勢になってしまっている人も多い。英語で何ができるようになるための勉強かということを今一度設定し直して,それに向かって勉強するということが大事だと思う。

統計学の勉強

専門的な知識の多くは,統計分析の結果として現れる。自分で統計分析ができなくとも,その結果が読めるようになるためには若干の統計学の知識が必要となる。最近は高校数学で統計学の基礎(相関係数ぐらい)はやっているとおもうので,統計(推測統計)の基本を学ぶのに,およそ6単位ー10単位ぐらいだと思う。統計学入門科目と基礎レベルの計量の科目,確率論の入門あたりをとっておくと良いのではないだろうか。統計ソフトウェアの使い方などは必要になってからでも勉強できるが,確率分布の話を必要になってから勉強するのではかなりまどろっこしいので,学部で一度やっておく,後で忘れてもいいからやっておくことが大事だと思う。

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