戦略の巧拙を識別するのは難しい

単一事例研究で,その事例に登場する企業の戦略の善し悪しを識別することはなかなか難しい。ある本を読んでいてそのようなことを思った。本当は書評を書こうと思っていたのだが,本の内容とあまり関係がなくなってしまったので以下にメモ書きを放出する。

たとえばA社とB社の2社からなる市場で,A社が市場成果で勝利し,B社が敗北したとしよう。この結果を両社の戦略によって説明することを試みよう。いくつかの説明が考えられるが,ここでは以下の3通りの説明を検討する。

説明① A社の戦略aがB社の戦略bよりも優れていたからA社が勝利しB社が敗北した。
説明② B社の戦略bがA社の戦略aよりも劣っていたからA社が勝利しB社が敗北した。
説明③ A社の戦略aはB社の戦略bに対して相性が良かったために,A社が勝利した。

説明①や説明②は,世の中には優れた戦略と劣った戦略があるという世界観に基づく説明である。この世界観では,ある戦略が標準的な戦略よりも優れているか勝てたのだ,とか,ある戦略が標準的な戦略よりも劣っているから負けたのだ,ということを記述することで,説明が成立する。

比較的単純な世界観だが,このような世界観でも,説明①と説明②を弁別することは難しい。自社の戦略が良かったから勝てたのか,相手の戦略にミスがあったから勝てたのか。勝敗は観察できるが,戦略の善し悪しについては直接観察することが難しく,また基準が競合他社しかないので,ある戦略が優れていることと,別の戦略が劣っていることはトートロジーになりかねない。

説明③は,単に説明①と説明②の弁別というのとは異なる難しさがある。じゃんけんでどの手を出すかについて勝てる期待値はどの手でも皆同じだが,勝敗は毎回決着する。このように,説明③の世界観では相手に合わせて勝負の相性が良い組み合わせが存在する。

グリコというじゃんけんの派生ゲームがある。階段を一番下でスタートし,一番上まで登ったら勝ち。じゃんけんをして,グーで勝った場合は「グ,リ,コ」と言いながら3段登ることができ,同様にパーで勝った場合はパイナツプルといい6段登ることができ,チョキで勝った場合はチヨコレイトと言い6段登ることができる。どの手で勝つかによって得られる報酬が異なるために,パーやチョキを出したくなる,お互いがパーかチョキしかださないのであればチョキを出した方が望ましい,しかし相手がチョキを出してくるとわかっているのであればグーにも価値がある,そういう駆け引きを楽しむゲームだ。

良い戦略というのは相手の行動に自分の行動を合わせることで初めて成立する。だから戦略を記述する際には,自社の行動を記述するだけでなく,最低限競合他社の行動を記述することが必要になる。(実際には,消費者をめぐって企業と企業が競争するので最低3者以上の関係である。このうち経営戦略論は主に対他社関係に主に着目する学問領域であり,対消費者関係についてはマーケティング論の領域と分業している。)

戦略論の領域で「戦略が優れていたんじゃなくて,相手が単にミスをしただけなんじゃないの」とか「戦略が失敗だったというよりは,最善を尽くしたけれども相手が強すぎたのではないの」という対抗仮説を検討することはなかなか難しい作業だ。自信を持って棄却するだけの材料がそろわないことが大半だろう。それでも何らかの言及を試みないといけないので,研究内容を詰めていくときに躓きやすい箇所であるといえるだろう。

 

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