こちらは経営入門ほどには多くならない予定(1分野だけなので)。
概説的な教科書
経営組織論
経営組織論とタイトルにある教科書の場合、マクロ組織論(組織文化や組織変革、組織学習など組織を単位とする分野)とミクロ組織論(組織行動論ともいう。リーダーシップなど小集団や個人を対象とする分野)の両方を含む構成であることが多い。桑田・田尾(2010) は「経営」の語がつかないのでより幅広い組織を対象としている。やや学術的な気配が強いというか、厳格に書こうとして返って未消化な記述が散見される(読者が読んでどう理解するかが予想できない文面があるというか)。
鈴木竜太(2018)『経営組織論 (はじめての経営学)』 東洋経済新報社。
安藤史江・稲水伸行・西脇暢子・山岡徹(2019) 『経営組織 (ベーシック+)』 中央経済社。
高尾義明(2019) 『はじめての経営組織論 (有斐閣ストゥディア)』 有斐閣。
桑田耕太郎・田尾雅夫(2010) 『組織論 補訂版 (有斐閣アルマ)』 有斐閣。
組織行動論教科書
組織行動論と題した教科書の場合、マクロ組織論系のトピックが消え、代わりに一部人的資源管理に近いトピックが追加される構成であることが多い。服部(2020)は学部というよりは修士レベルのテキストで、測定尺度等に詳しい。
須田敏子(2018) 『組織行動 : 理論と実践』 NTT出版。
鈴木竜太・服部泰宏(2019) 『組織行動 : 組織の中の人間行動を探る (有斐閣ストゥディア)』 有斐閣。
開本浩矢(2019) 『組織行動論 (ベーシック+)』 中央経済社。
服部泰宏(2020) 『組織行動論の考え方・使い方 : 良質のエビデンスを手にするために』 有斐閣。
組織設計論
沼上(2004) 以外の本を僕があまり探索していないのだが、組織設計は全社戦略に近い要素もあるので、牛島(2022)も本格的な教科書で参考になる。
沼上幹(2004) 『組織デザイン (日経文庫)』 日本経済新聞社。
牛島辰男(2022)『企業戦略論 : 構造をデザインする』 有斐閣。
パーソナリティ・能力
パーソナリティの特性五因子モデル(ビッグ・ファイブ)に関してはWikipediaのビッグファイブの項だけでもかなりいろいろとかかれている。各特性の具体的なイメージをつかむためには、ネトル (2009) が良いように思う。まあ多少偏っているのかもしれないが、リアリティのあるイメージをつかむことができる。
また、性格検査を実際に使うときの注意点として、MBTI(16分類)のような分類法を使うべきではないというのは重要なポイント(だし、MBTIはWikipediaにも疑似科学として批判されていると書かれている)なのだが、SNS等でも蔓延している。村上・村上(2017) はビッグ・ファイブを元に類型化するときは、その人が平均的な傾向から外れた1因子ないし2因子を使って分類する方法を提起している。概ね多くの人間は内向的でも外向的でもなく、平均的な程度に収まっている。ところがMBTIのような手法だと、全ての人間を強引にどちらかに分類してしまう。これはかなりミスリードを誘うのでやめた方がいい(妙な自己成就予言になるかもしれない)というのが1つ。もう一つは、この種の診断は所属する組織や似たデモグラフィックの人と比べてどれくらいずれているかという点に着目して特徴を解釈した方がよく、1人の結果からなんらかの解釈をすることが難しい。たとえば日本の大学生であればだいたいの場合協調性は高くでる。なのでそういうときに協調性のスコアが高くても、それはそんなに珍しいことではない。平均値と比べて個人がどのくらいなのかということが集団の中での個性の把握においては重要ではないかと尾田は考えている。
ビッグファイブと諸変数の関係、あるいはビッグファイブ以外の特性も含めた概説書として小塩(2020)は読みやすい啓蒙書。金井(2013) は倫理観にも生得的な部分があるという研究について解説しており、興味深く読んだ。素人が使う「能力」という言葉のややこしさについては最近出版された勅使川原(2022) が周辺ビジネスの事情も含めて描出している。
小塩真司(2020)『性格とは何か』中公新書。
金井良太(2013) 『脳に刻まれたモラルの起源 : 人はなぜ善を求めるのか (岩波科学ライブラリー ; 209)』 岩波書店。
ダニエル・ネトル (2009) 『パーソナリティを科学する : 特性5因子であなたがわかる』 白揚社。
勅使川原真衣(2022) 『「能力」の生きづらさをほぐす』 どく社。
村上宣寛・村上千恵子(2017) 『主要5因子性格検査ハンドブック : 性格測定の基礎から主要5因子の世界へ 3訂版』 筑摩書房。
モチベーション
経営学で扱う職務状況におけるモチベーションのことはワーク・モチベーションという。経営学におけるモチベーションは自分のモチベーションの問題と言うよりも、他者(部下)にこういう職務を与えるとか、こういう目標を設定する、こういう報酬を与える、そうした操作を行った時にどういう反応がありそうかというモチベーション管理の問題として理解した方がよいだろう。
モチベーション論自体はもう少し広い分野でのモチベーションを取り扱っていて、ワーク・モチベーションの他だと教育・学習心理学系統でも広く研究が行われている。モチベーションは1人の個人を対象とした話なので、グループ・ダイナミクス系統の教科書だとトピックに含まれていないことが多い。
組織行動論のテキストだとわりとあっさり済まされていることも多いのだが、実に多様な理論があり、正直どう攻めると整理がつきやすいのか僕もよくわかっていない。池田(2017)(これはウェブで無料で読める)はプロセスの各段階別の整理を提案している。完全に体系的な絵を描こうとするよりは、基本的な分類次元がいくつかあるので、まずはそれを覚えるところからだろう(内容/プロセス、接近/回避、内発的/外発的、結果からの学習や調整/将来への期待)。多様なモチベーション論を紹介している啓蒙書として、以下の2冊が挙げられる。鹿毛編(2012)の方が文献の参照はしやすく、鹿毛(2022)の方が説明がこなれているなと感じる部分は多かった。鹿毛(2022)は新書らしい新書(これ一冊としての読み物としてはよくできているが、体系的に勉強しはじめる一冊目としては若干不便)。あまり研究書寄りの本は探索していないが、上淵・大芦編(2019)も幅広いトピックの整理を行っている(学術的な入門書といった体)。
多様な理論があるが、教育状況のように原則無報酬で内発的な動機づけが重要な局面と、ワーク・モチベーションの状況はだいぶ違うので、自分の考えたい状況と関係なさそうな理論を除いたり、どこが状況として異なるのかを考える作業に結構な手間がかかる。
やはり経営学的・組織論的にはどのような職務設計にするのかということとモチベーションの間の関係を掘っていくのが生産的なのだろう。最近だとジョブ・クラフティングに関する研究書が登場している。ジョブ・クラフティングはどちらかといえば客観的な職務というよりは職務の認識範囲を含めてどう変わっていくのかを扱った概念で、それにともなってモチベーションやエンゲージメント、自己効力感といった諸変数との関係をみていくようだ。
池田浩(2017)「ワークモチベーション研究の現状と課題 : 課題遂行過程から見たワークモチベーション理論」『日本労働研究雑誌』59 (7), 16-25。
上淵寿・大芦治編(2019)『新・動機づけ研究の最前線』北大路書房
鹿毛雅治編(2012) 『モティベーションをまなぶ12の理論 : ゼロからわかる「やる気の心理学」入門!』 金剛出版。
鹿毛雅治(2022) 『モチべーションの心理学 : 「やる気」と「意欲」のメカニズム (中公新書 ; 2680)』 中央公論新社。
高尾義明・森永雄太編(2023)『ジョブ・クラフティング: 仕事の自律的再創造に向けた理論的・実践的アプローチ』白桃書房。
リーダーシップ
リーダーシップ研究も様々な”新しい”リーダーシップが提唱されて中々厄介な領域だなと思う。とりあえず、教科書以上ということで、研究書のレビュー部分から学ぶとすると結局のところこの領域は金井 (1991)のレビュー部分が空前にして絶後なのでこれを読むしかないというのがあり、近年では小野(2016)も本格的なリーダーシップの研究書である。その他、レビュー論文でトピックを一望できるものとしては淵上(2009)があるが、何か理解が深まるというよりは検索キーワード的な使い方だろう。
講義をしていて、悩ましいなと思うのは、例えば伝統的なタスク志向リーダーシップ、人間関係志向リーダーシップにしても、リーダーシップ・スタイルの測定尺度を紹介するというのが果たして学生の立場からして知りたいことだろうかというところ。じゃあ結局どうやったら「タスクが見える」人間になるのとか、配慮行動って何すればいいのよというところを考える上では若干抽象度が高すぎてハウツー的でないような気がしている。なので、研究としてどう進んでいくというところと、学部生向けレクチャーとしてのバランスが難しい。犬塚篤(2019)は、タスク志向/人間関係志向リーダーシップとチームの規模の問題を考えていて、研究から背後の実態をいろいろ想像させられる研究となっていて面白く読んだ(研究設計のデザインとしても綺麗で勉強になった)。
リーダーシップ論ではないのかもしれないが、モチベーションにおける目標設定理論と、リーダーシップのタスク志向を考える上で、管理会計分野におけるマネジメント・コントロール・システムやバランスト・スコア・カード、実務的なところでKPIマネジメントに関して紹介することにした。KPIについては嶋田・グロービス(2020)は売れていそうな本だが、割と一般的な指標がならんでいてあまりおもしろくはなく、楠本(2017)に書かれているケース部分の方が、なぜそのKPIにしたのかといったバックグラウンドが書かれていておもしろかった。
また、授業の構成としては、リーダーシップが終わったあとのタイミングで、パワーやコンフリクトについてのトピックを挟んでいる(これらで90分使うほどの教材は用意できていない)。勝手にがんばってくれるモチベーション、上司の働きかけでなんとかするリーダーシップ、とくると行動を強制するパワーについてはこのタイミングかなと思っている(組織を強調するのであれば、モチベーションよりも先にやるという手もあるだろう)。
犬塚篤(2019)「店舗内における非公式リーダーの発生要因:店員の能力限界に着目して」『組織科学』53(3)、75-85。
小野善生(2016)『フォロワーが語るリーダーシップ』有斐閣。
金井壽宏 (1991)『変革型ミドルの探求―戦略・革新指向の管理者行動』白桃書房。
楠本和矢(2017)『人と組織を効果的に動かす KPIマネジメント』すばる舎。
嶋田毅・グロービス(2020)『KPI大全: 重要経営指標100の読み方&使い方』東洋経済新報社。
淵上克義(2009)「リーダーシップ研究の動向と課題」『組織科学』、43(2)、4-15。
小集団と成果
社会的促進・抑制の議論、タスクの分類と成果の関係について、集団作業で生じるロス、ブレインストーミングとその成果の改善方法について、多様性と成果といったトピックを扱う回。(Forsythのグループダイナミクスのテキストにおおよそ準拠)。
集団に多様な存在がいると様々な情報へのアクセスが上がるが、その成果を組織が自動的に享受できるとは限らない。なので最近の心理的安全性(エドモンドソン、2021)の話や、ダイバーシティとインクルージョンの関係(船越、2021)について紹介するようにしている。
エイミー・C・エドモンドソン(2021)『恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』英知出版。
船越多枝(2021)『インクルージョン・マネジメント: 個と多様性が活きる組織』白桃書房。
意思決定とバイアス、フレーミング、ナッジ
個人レベルの意思決定とバイアスについては、最適化モデル・最大化モデル、プロスペクト理論、フレーミング等、集団レベルの意思決定とバイアスについては、共有情報バイアス、集団極性化、傍観者効果といったトピック。
ここに、あまり組織論でも経営学でもないのだが最近のナッジや行動インサイト系の話を最後に放り込んでいる(行動科学がここまで)。
集団の構造
組織構造の基本、分業の設計
ワークフローの設計
標準化とヒエラルキー
水平関係とその他の追加的措置
まとめ