アンリアリスティック・ジョブ・プレビュー(妄想の方が多い将来設計)

7/22(土),オープンキャンパスで進路相談に従事した。本学の場合,一般入試の勉強法みたいな話はほとんどなくて,最も直近に予定されているAO入試相談会のような様相を見せている。AO入試の際には将来の目標とか,どのような授業をとることでその将来の目標を達成するんです,みたいな志望動機兼将来設計を聞かされるのだが,なんだか空回りというか非現実的なストーリーになってしまうことが多くて(そしてAO入試という制度がそれを助長していて),どうしたものかなと思ってしまう。非現実的でもとりあえず,整合性のある話を組み立ててもらうだけでいっぱいいっぱいで,これを現実的な将来を考えるキャリア相談会として機能させるのは難しい。

僕は製品開発論という科目を担当しているせいか,「商品企画をやりたいです」とか「イベントのプランナーになりたいです」のようなプランニングがよくやってくる。商品企画,リサーチでもコンセプト設計でも,その後の実装でも構わないのだが,仕事になるのは他人の言葉にしづらい欲求を言葉に起こすことだったり,他人の困りごとを解決するための手段を提示することであって,何か自由帳に絵を描くような仕事ではないのだ,ということを短い時間で伝えるのが中々難しい。高校生と会話しながら,彼らは一方で9月にAO入試が差し迫っていて,欲しいのはそんな遠い先の現実の話ではないのだと思いながら,何をどうしたものかな,と思いながら目先の仕事をこなしてしまう。

約一週間後の7/28(金),今度は在学生の話。有志の学生達(3年生中心,やる気のある2年生も)に集まってもらってマーケティング・リサーチ・セミナーを開催した。昨年に引き続きマクロミル社にご協力いただいて,実際の購買履歴データなどを見せてもらい,リサーチの仕方に関する実習などを行うもの。90分という限られた時間の中ながら,講師のスムーズなナビゲーションのおかげで,楽しめたのではないか(写真を撮るのを忘れた。昨年度の開催の様子はこちら)。

ゼミなどで学生達に実習課題を与えるとどうしてもアイディア出しのコンテストの様相になってしまい,妥当な推論であるかどうかを確かめるための調査設計を考えるとか,仮説に対して経験的な証拠を集めるという段階にまで至らないのが悩ましいところ。どういう質問をしたらどういう回答が返ってきそうか,その質問はどういう仮説に基づいていて,どういう答えがかえってくると予想通りといえるのか。こういったことを考えるためには社会調査や統計,仮説構築に関する知識と経験が必要になる。ある商品が好きかどうかとか,やる気の問題よりもむしろ,基礎学力に裏付けられた推論能力の問題となる。

結局のところ入学前も入学後も,職業に対するある種の妄想を解決できていないまま,学生達を就職活動に突入させてしまっていることに力不足を感じる。あさっての方向を向かないようにするだけのことなのだが,大学が役に立つかとか役に立たないとか,そういう議論を読んでいると,確かに役立たせるどころの話ではないところにも問題があるようにも感じられる。

なお,タイトルは西尾維新の某キャラの技名を元にした造語だ(僕はキメ顔でそう言った)。でもリアリスティック・ジョブ・プレビュー(realistic job preview,RJP)は専門用語。例えば以下の論文などを参照のこと。

堀田聰子(2007)「採用時点におけるミスマッチを軽減する採用のあり方:RJP (Realistic Job Preview) を手がかりにして」『日本労働研究雑誌』567: 60-75。

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