2020年のゼミ活動報告

学内向けに書いた原稿を転載します。

本ゼミは2020年度より開始されたゼミなので、1期生である3年生の1年間の活動内容について報告する。本ゼミでは、経営戦略論など経営学やその他社会科学領域における本の輪読と、各種調査等のグループワークを行っている。以下では、時系列順にゼミの内容を紹介するとともに、受講したゼミ生の感想を交えて活動内容を報告する。

4月(休講期間):新型コロナについての分析

教員が着任初年度だったため、3月末にゼミ選考が行われ、1期生は12名でのスタートとなった。ZoomやSlack等の各種ツールの使い方を慣れるとともに、1ヶ月の休校期間を使い自主ゼミを開催した。新型コロナの感染状況についての分析を、①感染者数の統計分析(対数グラフの読解や作成)、SIRモデルなど感染症の数理モデルの理解、②年表の作成、③対応に当たっている各種組織(厚労省クラスター対策班など)の運営体制の読解、④新型インフル特措法など法体系の読解についての自主ゼミを行った。

感染者数の推移を確認する際には、毎日の数字ではなく、1週間単位の数字を確認した方が望ましいこと、指数関数的な増大になっているかどうかがポイントであることなどを学修した。法的根拠についての学修からは、2009年頃の新型インフルエンザへの対応を元に今回の新型コロナウイルスへの対応が考えられていること、3月に緊急事態宣言が発出されたが、基本的には医療機関に対する資源確保が主な目的であり、諸外国で行われたロックダウンのように、一般市民の活動を制限することを目的としているわけではないことなどが確認された。

ゼミ生の感想

「日経新聞を購読するきっかけになりました。ゼミに入るまでは空いてる時間はインスタグラムであったが、今はスマホで新聞を読んでいます。」

「ニュースで出てる情報よりもより詳しいものを探すというのは、ただ生活しているだけではなかなかできないが今の時代少しネットを漁れば手に入れることができるのだと思った。そしてその少し調べるという行為で大きな差がでるなと感じた。」

「初めてのゼミで緊張したが、zoomにてチームで行動することが多かったので慣れた。また片対数グラフなどExcelの使い方もわからなかったがここでExcelの使い方を他のゼミ生に教えてもらってだいぶ使い方がわかるようになった。」

5月~7月:プロジェクト①サイゼリヤ

サイゼリヤを事例として、財務分析やマーケティング戦略の分析など、経営学の基本的作業の実習を行った。サイゼリヤの創業者である正垣泰彦氏の著書『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』を輪読し、書かれた内容の整理を行いつつ、実際のサイゼリヤの経営状態と著書の内容を比較検証する調査を行った。調査は、4つの班に分かれ、それぞれの班ではサイゼリヤの他にひとつ比較対象となる企業を選び、2つの企業について財務分析やマーケティング戦略の分析を行った。比較対象企業は、マクドナルドとガスト、ロイヤルホスト、鳥貴族の4事業が選ばれた。

プロジェクトの前半が、ある意味では無目的に財務データやマーケティング戦略を調べ始めたのに対して、ある程度企業の中身について知ったプロジェクトの後半では、問いの立て方の練習として、一見しても答えの出ない問いや、不思議な現象を探すトレーニングを行った。例えば、鳥貴族ではドミナント戦略(一定の地域に集中して立地する戦略)がとられていたが、コンビニで採用されていた戦略が、居酒屋でも有効なのかどうかについて検討を行った。

ゼミ生の感想

「学んでから改めてサイゼリヤの店舗に足を運んだ時、今までと違う視点でお店を見て、こういう戦略をとっているからこういうシステムになっているのか、と色んな所に興味を持ちながらお店を味わう事が出来て面白かった。」

「本を読む際、これまであまり論理的な矛盾だったりを見るということをしていなかったのだが、一見ちゃんとした本でも理論が矛盾していたり、因果関係が成り立っていないのだなと分かった。」

サマーセミナー:輪読

1期生は2年次後期の学修をしていないため、サマーセミナーで半年分の学習内容を補った。そのため、来年度以降はサマーセミナーを実施しない。サマーセミナーでは2冊の本を輪読した。1冊目は清水洋(2019)『野生化するイノベーション』新潮選書で、第一線のイノベーション研究者が書いた啓蒙書であり、イノベーションに関する論点がコンパクトにまとまっている。特に、経営資源の流動性がイノベーションに与える影響や、イノベーションがもたらす副作用についての検討が特筆すべき内容となっている。久米郁男(2013)『原因を推論する』は社会科学の実証系の研究で因果関係を検討する際に考えるべき初歩的な内容についてまとまっているテキストである。

ゼミ生の感想

「読書は好きだが、このような硬い文章で内容も難しい本をサマーセミナーの期間で読むのは難しかった。普段の授業期間とは異なり、ゼミに重きをおいて輪読に向き合う経験は貴重な時間だったと思う。」

「サマーセミナーで読んだ2冊については、因果関係を特に意識しながら読むということを行ったことが印象に残っている。この因果関係というのはゼミ以外の尾田先生の授業でも出てきた話で、これを意識するのが重要なのだと分かった。」

9月~10月:輪読のつづき

社会科学が基本的に社会現象の因果関係に関する記述であることが理解できると、経営学のみならず、学習したことがない他分野の本であっても、読解が容易になる。そのことを確認するために、筒井淳也(2016)『仕事と家族』中公新書を輪読した。家族社会学の啓蒙書である筒井(2016)は、出生率や女性の労働参加率に影響する各種要因を国際比較したり、歴史的経緯を確認することで、原因の追求を行っている。概念の整理と、実証研究の紹介のバランスが良く、エスピン=アンデルセンの福祉レジーム論など、同分野の代表的な学説を学ぶことができる。

ゼミ生の感想

「人生で読んだ冊数をこの半年で上回りました。神です。」

「将来仕事について家族をもつことへの不安が大きくなったが、時代による移り変わりをリアルに実感することができた。」

「私自身疑問に感じてきたなぜ日本は少子化が進んだのか、どのように対策をするべきなのかということをとてもわかり易く書いており、ゼミの課題以上に一つの読み物として面白かった。」

11月~:プロジェクト②

当初のシラバスでは蔦屋書店等を運営しているCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)を事例として、多角化企業の分析を行う予定だったが、相談の結果、以下の2種類の内容から各自が一つを選択することとした。

①新型コロナが各業界の業績に与えた影響の分析

サイゼリヤの分析が1社、2社程度の少数事例研究だったのに対して、各業界の影響を調べる際には多数の企業のデータを処理する工夫が必要となる。まだ半年分の業績しかでていないため、まずはより容易に入手できる株価を用いて、3000社程度の上場企業の騰落率を計算し、業種別の傾向を分析している。教員が作業手順の概略を示し、学生同士でエクセルの操作等をお互いに教え合って学修を進めている。

ゼミ生の感想

「大量のデータを前に右往左往しています。Excelの能力をもっとあげようと思いました。」

「コントロールシフト→↓で範囲選択する技を身に着けました。」

「株のことを全然知らなかったので、株価の動きに触れることができてよかった」

②コンテンツ・マーケティングの実習

本来4年次に予定されていたカリキュラムを先取りして行っている。コンテンツ・マーケティングとは、企業が有用な情報をウェブサイト等で無料提供することで、そのページを閲覧した人を自社事業に誘導するマーケティング手法である。

学生は、ウェブページに何らかの作文を掲載し、アクセス数を集める。その過程で、どのようなキーワードで検索されるか、どのような競合ページがすでに存在していて、どのように競争優位を実現するかなど、自分のリソースを勘案しながら自分が世の中にどのような価値を提供できるか、それを市場がどう評価するのかといったことについて、実践的な観点から学ぶことを想定している。

ゼミ生の感想

「自分が書きたい記事ではなく、他人が何を求めているのか、それを考え、生み出すのは難しい。既にある記事よりも優れた情報を提供し、より多くの人の目に留まる記事にできるよう頑張りたい。」

「ゼミ生と試行錯誤しながらどんなことに需要があるのか考えることでコミュニケーションをとる機会が増えて仲良くなれた」

おわりに

一応載せられるような感想を書いてねとお願いしたので大分良い子たちなコメントに仕上がっていますね。1期生は他のゼミよりも半年遅れてのスタートとなりましたが、非対面状況下でよくがんばっているとおもいます。

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