間接経営戦略としての制度関与:風営法によるクラブ規制を題材に

論文っぽい題名にしてみた。先週の金曜に議員会館で規制反対の署名の提出集会があったのでちょっと聴きに行ってきた。

問題の概要
風営法の規制対象となっている業種にはパチンコやらなんやらいろいろあるのだけど,その中で「客にダンスをさせる営業」というのがある(風営法第2条1号,3号,4号)。昔風に言えばディスコ,今風に言えばクラブもその対象で,夜12時までしか営業ができないようになっている。居酒屋とかは朝までやっているのに,客を踊らせるクラブは時間制限がかかっていて,違反すると営業停止処分になってしまったりする。

時間外営業についてわりと黙認されてきた部分もあったのが,2011年11月に京都のWORLDへの警察立ち入りがあって以来,大阪や渋谷など各地で警察の立ち入りや営業停止処分があって,警察の裁量が読めなくなってきた。ダンス教室を開こうとして公共施設の部屋を借りようにも風営法に違反する可能性があると指摘されて,借りられなくなったり,規制が厳格に適用されることで,ダンスを踊ることのできる場所が減ってきてしまっている。

現在行われている運動
ダンス文化の危機だ,ということで2012年5月からLet’s DANCE 署名推進委員会という団体が規制反対署名活動を展開してきた。15万筆を超える署名があつまったので,それを国会議員に託して,国会に請願をだしてもらおう,というところまで至った(余談だが,市民から直接の申し入れを陳情,国会議員の推薦を得たものを請願と呼ぶ。)。

集会では関係者や国会議員が順々にスピーチをしていて,さまざまな正当性の主張のされ方がなされていた。めだった論理は,ダンスの文化としての正当性をさまざまな別の正当なカテゴリーに属することで主張するやりかた。

義務教育にもヒップホップダンスが組み込まれている。
・アルゼンチン・タンゴは無形文化遺産,今の規制は外国の人に説明できない。
・ダンススポーツ(競技ダンス)はオリンピックの競技候補にもなっている。

その他にも
・今の4号適用除外制度は,指導者団体がつくれないようなマイナーなダンスは対応出来ない
・生活スタイルは多様化している。深夜にしかダンスを楽しめない人がいる。

などの主張がスピーチでは登場した。感心したのは,かつての政治運動で,社交ダンスは適用の除外が認められたのだけど,運動の成果が中途半端に終わってしまったことを社交ダンスの中の人が自己批判的にお話しされていたことだろうか。自分たちはもう解決した問題なのでもういいや,と考えることもできる中,継続して活動されていることには個人的に敬意を表したい。

このダンス規制反対は弁護士が主導している活動のようで,署名からはじめて,国会議員を直接説得,議員連盟をつくってもらう,というプロセスを経ている。アーティストやフェスの経営や,いろんなダンスのジャンルを超えた市民運動になっていてすごいなあと思う。

僕の感想

このケースの難しいところは,相手が警察庁という,一般の直接政治参加が難しい行政を相手にしているところだとおもう。もう今の運動はずいぶん進んだのでこのまま警察相手でやり通せば良いとおもうけど,規制解除を成し遂げたら,ダンス文化振興を目的とするような,味方になってくれる省庁(文化庁?文部科学省?観光庁?)を探すのも一案かもしれない。

あまりビジネスの観点が見られないので,もう少しクラブに関わる利害関係者を広くまきこめたらいいのだけど,と経営学者的には思う。例えば,クラブのオーナーはこういう政治活動を行うと,かえって警察から目をつけられてしまうのではないか,ということを懸念する人がいる(磯部さんの著書にはその手の記述がある)。また,個々のクラブ・オーナーは,自分の営業許可は死活問題だけれども,クラブ文化全体の振興から得られるメリットは必ずしも大きくはない。

ここにDJの機材メーカーとかが関与すると,音響機器メーカーは(クラブのオーナーほどには)警察こわくないし,クラブ文化全体の振興でメリットを最も享受するプレイヤーのひとつなので,こういう関係者を巻き込んでいければいいな,と思う。DJ機器メーカーにとっては間接経営戦略になる,というわけだ。例えば,ミシュランというタイヤメーカーがわざわざグルメガイドを出すように,直接売上増につながるわけではないのだけど,間接的に,長期的にプラスにはたらくように,法制度の改正に関わっていけるといいなと思う。

参考文献(並べ方てきとう)
磯部涼(2013)『踊ってはいけない国で,踊り続けるために』河出書房新社。
磯部涼(2013)『踊ってはいけない国、日本』河出書房新社
Time Out Tokyo (タイムアウト東京) 「日本でのダンスはご遠慮ください」http://www.timeout.jp/ja/tokyo/feature/6279
Lanre Bakare, “Japan’s clubbing crackdown: don’t stop the dance”,http://gu.com/p/3fpg9/tw

『東京新聞』「踊りながら訴えた 風営法 ダンス規制削除を:社会(TOKYO Web)」http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2013051802000127.html
『毎日新聞』「ダンス議連:衆参60人で20日発足 風営法見直しへ 」http://mainichi.jp/select/news/20130517k0000e010178000c.html

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