専門知と政治的意思決定(休校要請についての雑感)

政府の意思決定を3段階のプロセスモデルで考えてみたい。①専門家や公衆の意見や選好などの情報収集、②意見に対するリーダーによる意思決定(大勢の意見に従ってもよいし、リーダーには逸脱した意思決定を行う自由もある)、③意思決定の結果として生じたアウトカム(良い結果、悪い結果)。

2020/02/27、昨日の夕方、新型コロナウイルスの抑制を目的として、小中高を臨時休業を要請する旨、安倍首相から発表がなされた。

あまり報道や専門家の意見をちゃんと追っていないのだが、少なくとも24日に発表された専門家会議の見解では、明確な選択肢として学校の休校が優先度の高い選択肢としては述べられていなかった。

症状がなくても感染している可能性がありますが、心配だからといって、すぐに医療機関を受診しないで下さい。医療従事者や患者に感染を拡大させないよう、また医療機関に過重な負担とならないよう、ご留意ください。
教育機関、企業など事業者の皆様も、感染の急速な拡大を防ぐために大切な役割を担っています。それぞれの活動の特徴を踏まえ、集会や行事の開催方法の変更、移動方法の分散、リモートワーク、オンライン会議などのできうる限りの工夫を講じるなど、協力してください。

一応「教育機関…」とあるが、「集会や行事の開催方法の変更」で通常読み取れるのは卒業・入学関連イベントに関わる変更といったところだろう。

日本医師会が要望した、という報道も入ってきている(NHKニュースなのですぐにリンク切れになる可能性が高い)が、

日本医師会が首相に要望

一方、日本医師会の横倉会長は、27日夕方、総理大臣官邸を訪れて安倍総理大臣と面会し、新型コロナウイルスの感染拡大の防止に向けた要望書を手渡しました。

要望書では地域の感染状況などに応じて学校の臨時休校や春休みの前倒しを実施することや、ウイルス検査を医師の判断で確実に実施できるよう体制を強化すること、それにアメリカのCDC=疾病対策センターのような組織の創設などを求めています

タイムラインを見ると公式の提出が27日夕方で遅すぎるので、政府の意思決定にかかる情報を提供したのか、政府の意思決定が内々に先に決まったので、政府からの根回しで要望を出したように見せたのか、疑問が残る。

感染症医で、クルーズ船の意思決定にも関わっている高山義浩医師は、自身のfacebookで卒業式について次のように述べている

卒業式はどうでしょうか? そんなに皆さんが触りあうわけではありませんね。不特定多数でもありませんし、有症者を休ませることも難しくないはず。ですから、開催自体は問題はないと思います。ただし、時間短縮は検討した方がいいかもしれませんね。念のため換気を行ってください。下級生との握手やハグは避けましょう。肘と肘をタッチする挨拶を普及させましょうね。あと、トイレなど共用部分にはアルコールを設置すること。

その後の謝恩会は? う~ん、残念ですが、流行が終わってからの企画へと延期した方が良さそうです。カラオケ行ってもいいけど、なるべく少人数で行きましょう。カラオケに限らず、それぞれの事業者はマイクのような共用物品の消毒をこまめにお願いします。

これらの情報を勘案するに、少なくとも、事前に専門家が強く小中高の臨時休業を要望した事実は、傍から見る分にはなかったように見える。休校の要請は専門家の意見よりも政府が主体となって行った意思決定であり、専門的知見からはやや逸脱したリスクテイクであると見なすことができるだろう。

僕は政府には専門知から逸脱した意思決定をする自由があると思っている。正確には、前段階の情報収集や意見の統一プロセスは良いルーティンが構築される場合と、悪いルーティンが構築される場合があって、ある程度政府が独立した意思決定をできるようにしておかないと、悪いルーティンからの逸脱できなくなってしまうからだ。

悪いルーティンから逸脱して良い結果を生むケースとしては、例えばハンセン病家族訴訟での控訴断念の政治的意思決定が挙げられる。放っておくと行政は控訴しただろうから、そういうのを止めるのは政府の仕事だ。

もう一度モデルを確認しておきたい。

良いルーティン/悪いルーティン → ルーティンの遵守/逸脱 → 意思決定の結果(良い結果/悪い結果)

こういう3段階(全部で8通りのパターン)で僕は考えている。まだアウトカムは見えていないが、休校要請の意思決定も結果オーライになる可能性もある。

良いルーティンにはいくつかの特徴があろう。専門的知見が尊重されること、多様なステイクホルダーの意見を収集し少数派も尊重されること、事前に定められたルールを遵守した手順で進められていること、その過程が記録され、適切なタイミングで公開されていることなどだ。

適切な情報収集ルーティンから逸脱した意思決定を行う場合、①結果が良ければ内容的に認められる可能性と、②なぜ逸脱するのかについての理由が納得できれば許してもらえる可能性があると思う。①は今わからないのだが、②については改善の余地がいろいろあったのではないか。

また、普段から良いルーティンを尊重する姿勢を見せておくことも重要だ。公文書を捨てたり、不明瞭な領収証を切ったり、口頭で決裁したりしてはいけない。くだらないことでそういう逸脱をしていると、いざというときに悪いルーティンから大事な逸脱をしても、納得が得られなくなる。逆に、普段から手続きを守っておくというのは大事な意思決定をするためにも重要だと言える。

政府には専門知から独立した意思決定を行う自由がある。しかしそれにしては最近の安倍政権は日頃の行いが悪いし、専門知から逸脱する理由の説明もないというのはひどいのではないだろうか。

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