都構想の住民投票の結果で,各社の出口調査には数字の開きがあることを知った。
年代別では、20~50歳代で賛成が優勢。60歳代では賛否が拮抗し、70歳以上は反対が多かった。性別では、男性が賛成57%で反対41%を上回ったが、女性は賛成48%、反対47%と並んだ。
調査は市内24区の投票所計280か所で行い、投票を終えた有権者1万77人から回答を得た。
(共同・毎日)大阪都構想住民投票 出口調査、60代超は過半数が反対
賛否を性別でみると、男性が賛成55・5%と上回る一方、女性は反対が52・0%と賛否が逆転。年代別では、20~50代で賛成が5割を超えたものの、60代は51・8%が反対、70歳以上は3分の2に当たる63・8%が反対に回った。
調査は共同通信社、毎日新聞社、毎日放送、関西テレビと協力して行われ、投票を終えた有権者2781人から回答を得た。
(朝日)20・30代は6割賛成 都構想 朝日・ABC出口調査
年代別にみると、とくに賛成した人が多かったのは20代(61%)と30代(65%)。40代(59%)、50代(54%)、60代(52%)も賛成が過半数を占めた。一方、70歳以上は反対が61%で賛成を上回った。
調査は大阪市内60カ所の投票所で実施した。有効回答は2625人。
全年代のデータを開示しているのは朝日・ABCのみだが,この数字では反対多数が70代以上のみである。有権者数と投票率を仮置きして朝日の調査で得られた賛成率をかけると,全体で53%の賛成多数となってしまう。
大阪市 推計人口 |
H24衆院選+各年代7.6% | 朝日・ABC出口調査 | |||
有権者数 | 投票率 | 投票者 | 賛成率 | 賛成者 | |
20代 | 325,010 | 42.8% | 139,007 | 61% | 84,794 |
30代 | 379,719 | 55.3% | 209,947 | 65% | 136,465 |
40代 | 408,282 | 62.5% | 255,054 | 59% | 150,482 |
50代 | 304,597 | 72.3% | 220,345 | 54% | 118,987 |
60代 | 352,285 | 79.3% | 279,397 | 52% | 145,287 |
70代 | 301,201 | 82.4% | 248,039 | 39% | 96,735 |
80以上 | 178,802 | 65.0% | 116,132 | 39% | 45,291 |
2,249,896 | 65.2% | 1,467,921 | 53.0% | 778,041 |
有権者数は大阪市の推計人口から,投票率は大阪市選管が過去の衆院選について調査した結果に,全体投票率の分を補正した(今回の投票率は65.2%なので,全体の投票率が65.2%になるように各年代の投票率にそれぞれ7.6%ずつ足した)。
出口調査が正しいと仮定して,投票率65%,賛成率50%未満を満たすように各年代の投票率を計算すると,20代30代をゼロにせざるを得なくなる。
大阪市 推計人口 |
無理矢理計算 | 朝日・ABC出口調査 | |||
有権者数 | 投票率 | 投票者 | 賛成率 | 賛成者 | |
20代 | 325010 | 0% | 0 | 61% | 0 |
30代 | 379719 | 0% | 0 | 65% | 0 |
40代 | 408282 | 80% | 326,626 | 59% | 192,709 |
50代 | 304597 | 100% | 304,597 | 54% | 164,482 |
60代 | 352285 | 100% | 352,285 | 52% | 183,188 |
70代 | 301201 | 100% | 301,201 | 39% | 117,468 |
80以上 | 178802 | 100% | 178,802 | 39% | 69,733 |
2249896 | 65.0% | 1,463,511 | 49.7% | 727,581 |
どうもあり得ない水準であることがわかったので,今度は投票率の方を参考値に固定して,反対多数となるような賛成率をむりやりだしてみよう。朝日の出口調査から各年代均等に3.2%程度ひいてみる。
大阪市 推計人口 |
H24衆院選+7.6% | 朝日・ABC出口調査-3.2% | |||
有権者数 | 投票率 | 投票者 | 賛成率 | 賛成者 | |
20代 | 325010 | 42.8% | 139,007 | 57.8% | 80,346 |
30代 | 379719 | 55.3% | 209,947 | 61.8% | 129,747 |
40代 | 408282 | 62.5% | 255,054 | 55.8% | 142,320 |
50代 | 304597 | 72.3% | 220,345 | 50.8% | 111,935 |
60代 | 352285 | 79.3% | 279,397 | 48.8% | 136,346 |
70代 | 301201 | 82.4% | 248,039 | 35.8% | 88,798 |
80以上 | 178802 | 65.0% | 116,132 | 35.8% | 41,575 |
2249896 | 65.2% | 1,467,921 | 49.8% | 731,067 |
各年代の賛成率がこうなっている保証はないが,この数字は一番辛めの予想だった共同・毎日連合の結果に近い(共同・毎日は60代の賛成率48.2%,70代の賛成率36.2%としている)。朝日の数字が広く流布しているが,不正確な数字を元に解釈するのは望ましくないと思う。
さて,各年代の投票率は未だ公開されていないが,24区それぞれの投票率と賛成率は計算できるので,他のデータと組み合わせて,今回の住民投票の結果をいくつか確認してみよう。
まず,各区の平均年齢と賛成率には明確な負の相関が確認できる。平均年齢のデータが5年前の国勢調査なので年齢の絶対値に意味があるかどうかはわからないが,各区の相対的な比較をする分には問題ないだろう。
データをひとつひとつみていると,どうも立地だけでも説明できそうなので,説明変数を大阪駅から各区役所までの徒歩距離(グーグルマップで計算)に変えてみる。これでも単回帰の決定係数が0.5を超えている。中心部and若年齢層では賛成,周縁部and老年齢層では反対が大きかったことがわかる。
なお,このように賛成率とは明確な相関を示す平均年齢や距離だが,投票率との間には明確な相関関係は確認できなかった。 個別の散布図は示さないが,賛成率と投票率の関係だけみておこう。横軸に投票率(平均65%),縦軸に賛成率とするバブルチャートを書いてみる。円の面積は有権者人口である。
反対多数の区はグラフ右下に固まっていて,平均よりも高い投票率がほとんどであることがわかる。著しい反対多数で大勢が決まっているわけではなく,多くは賛成率で45%以上はある。逆に賛成多数の区のうち北区,中央区,西区,淀川区では賛成率が54%overと明確に賛成の意思が見える。これらの区の投票率は平均よりやや低い。グラフ全体を見ると,強い負の相関とまではいかない。賛成多数の区で投票率が高い区もある(都島区,福島区,城東区,鶴見区)。これらのグループは,それほど強い賛成率ではない。
投票率にもっと明確に地域間の違いが出ていれば,話はもっと単純だったはずだ。中心部かつ若年層が選挙に行かず,周縁部・高年齢層が選挙に行き,もっと明確に否決されたはずだ。だが今回は全体の水準が65%とここ2回ほどの衆院選よりも高く,地区別のばらつきも60%-70%ぐらいに収まっている。投票結果は,ぎりぎりでの反対多数となった。
中心部の若年・中年層は,周縁部の高年齢層ほどの高水準ではないものの,彼ら自身の水準では高い水準の投票率でもって,賛成の意思表示をしているように見える。大阪駅から4km圏内ぐらいの中心部で少数の強いYES,周縁部の曖昧だがじりじりと多数のNO。混合した結果,全体としてはNO。朝日・ABCの出口調査が妙に上振れしたのは調査設計のどこかで強いYESをとらえすぎたのではないか。
住民投票の結果に対して何か分断されたように感じる後味の悪さがあるとすれば,賛成している人々は明確でお互いに目に見えるわりに,反対の意思表示は多様でぎりぎりのところで必ずしもわかりやすくない,そのような非対称性も後味の悪さの一因ではないか。想像にすぎないがそのようなことを感じた。
個人的には,大阪市の再編成は初期コストに見合わないだろうという気がするので,否決されたことは大阪にとって良いことだと思っている(ここまでかかった時間と労力のサンクコストは痛いが)。それだけに,中心部の,比較的所得も学歴も高いであろう現役世代が何をどう考えて賛成しているのかが門外漢にはよくわからないところで,地元の人の感想を聴いてみたいと思う。